Category: 教育 Education

  • 日本語で学ぶ Learning in Japanese[1]

    日本語で学ぶ[1]

    内藤 邦彦 @バンクーバー日本語学校

     

     

     

    日本人学校

    日本経済の発展にともない,多くの日本人とその子どもたちが海外で暮らすようになっています。現在では,海外で暮らす義務教育段階の日本人の子どもは6万人前後と見られ,また海外に長期間在留した後に日本に帰国する子どもの数も増加しています。日本人の子どもたちが海外で日本語で学ぶことができる学校には,大きく分けて,日本人学校,補習授業校(補習校),日本語学校の3種類あります。この他に日本の大手私立学校が海外教育施設として設置した私立在外教育施設がありますが,数が限られており,例外的なものと考えてよいでしょう。

    今回から数回に分けて日本人学校,補習授業校(補習校),日本語学校それぞれの教育目的や教育内容についてご説明します。今回は日本人学校についてお話しします。

    ある国で日本人学校が設置されるのか補習校が設置されるのかは,その国・地域における日本人人口の規模,すなわち日本語による教育に対する需要の大きさによると考えてよいでしょう。東南アジアのように日本人が多い国・都市では日本人学校が多く設置されますが,日本人が少ないカナダでは補習校はあっても日本人学校はありません。まずこの日本人学校からお話しすることにしましょう。

     

     

    文部科学省と外務省は,憲法の定める教育の機会均等の精神に沿って,海外でも日本人の子どもが日本語による教育を受けることができるよう,海外子女教育に様々な施策を講じています。例えば,文部科学省は教員派遣,教材整備補助,帰国児童生徒の受入れ支援などを,また外務省は在外教育施設の賃借料援助や現地採用教員謝金援助などを行っています。日本人学校もそのひとつですが,これは日本の小学校・中学校と同等の教育を行うことを目的とする全日制の教育施設で,文部科学大臣から日本の義務教育と同等の教育課程を有する旨の認定を受けています。したがって,日本人学校を卒業すると日本の小・中学校卒と同等の資格が認定されますので,子どもが日本に戻ったときに上級学校へスムーズに進級することができます。

    日本人学校は一般に日本人会等が主体となって設立され,運営は日本人学校長,日本人会や進出企業の代表者,在外公館職員,保護者の代表者などからなる学校運営委員会によって行われます。運営経費は授業料等の保護者負担金,企業の寄付,日本政府からの援助等でまかなわれます。現在,日本人学校は世界49か国に86校設置され,幼稚部を併設している日本人学校もあります。

    日本人学校は日本の小・中学校と同等の教育を行なうための学校で,教育課程も原則的に日本の学習指導要領に準拠します。教科書も日本のものが無償給付されます。年間授業時数も日本の学校と同じ扱いですが,現地の自然や社会事情により違いがあるようです。なお,多くの日本人学校では週5日制が実施されています。

    国際交流の観点から,日本人学校でも所在国の言語や歴史,地理などにもとづく指導を取り入れたり,運動会や音楽会を現地校と協力して行うなど,現地の子どもとの交流に努めています。国際学級を設けて日本人以外の生徒を受け入れている日本人学校もあります。ほとんどの日本人学校の小学部で英語や英会話等の外国語教育が実施されており,中学部でも教科としての英語以外に英会話や現地語に関する外国語教育が行われています。

     

    著者経歴:東京学芸大学教育学部数学科卒。日本女子大学附属豊明小学校教諭,バンクーバー補習授業校教頭を経てバンクーバー日本語学校主任教諭。

     

    本稿はJaponism Victoria, vol.3, no.1, 2009掲載の同名記事に加筆修正をしたものです。著者経歴は執筆時のものです。

     

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  • 日本語で学ぶ Learning in Japanese[2]

    日本語で学ぶ[2]

    内藤 邦彦 @バンクーバー日本語学校

     

     

    補習授業校

    前回の日本人学校のお話しのなかで述べましたように,現在,海外で暮らす義務教育段階の日本人の子どもは約6万人です。そのような子どもたちに日本人としての教育を行うための海外施設が,前回お話しした日本人学校とこれからご説明する補習授業校(補習校)です。

    補習授業校は,日本人の子どもが現地の学校や国際学校(インターナショナルスクール)に通学しながら,土曜日や放課後などを利用して学ぶための施設で,日本国内の小学校・中学校の一部の教科について日本語で授業が行われます。補習授業校は日本人学校と同様に,現地の日本人会等により設置・運営されています。昭和33年(1958年)に米国のワシントンに設立されて以来,世界55カ国,201校の補習授業校が設置されており,約1万7千人の子どもたちが学んでいます。カナダBC州ではバンクーバーに,このほかアルバータ州,ノバスコシア州,オンタリオ州,ケベック州,サスカチュワン州に補習授業校が設置されていますが,ビクトリアにはありません。

    補習授業校では国語を中心に,また施設によっては算数(数学),理科,社会などを加えた教科について,基礎基本を習得するための授業が日本の教科書を用いて行われています。補習授業校の年間授業日数は40日から50日程度のところが多く,教科書の内容を精選して指導しています。また,補習授業校は現地のいろいろな学校に通学している日本人の子どもたちが週に一度,一緒に会える数少ない機会でもありますので,日本の学校の学習習慣や生活習慣などを指導して,日本の学校文化に触れることのできる貴重な教育の場となっています。

     

    設置目的・教育目的という面から考えると,補習授業校とは:

    • 【教育対象】現地の学校に通学する児童生徒が
    • 【教育目標】再び日本国内の学校に編入した際にスムーズに適応できるよう
    • 【教育内容】基幹教科の基礎的基本的知識・技能および日本の学校文化を
    • 【教育方法】日本語によって教育する

    ための教育施設ということができます。

    お子さんを補習授業校に入学させる時に親ごさんがこの設置目的・教育目的をよく理解されておられると,入学後にお子さんに無理な学習を強いるようなことがなくなるでしょう。

     

     

    日本に帰国した後にお子さんが学校生活にスムーズに適応できるようにするためには,補習授業校での学習においてつぎ点を大切にされるとよいでしょう。

    1. 補習授業校の勉強・宿題をきちんとやる。
    2. 家庭内ではできるだけ日本語を使う。
    3. 家庭でも日本語の本を読む。

    その際に,親ごさんもお子さんと一緒に補習授業校の勉強をしていくという姿勢がとても大切で,これはお子さんの学習状況を把握する上でとても役立ちます。

    ここで補習授業校における教師について少しふれておきたいと思います。教育の質が教師の質に大きく左右されることはいうまでもありません。特に,国内に比して教育条件が十分ではない補習授業校においては,教師の果たす役割は極めて大きいといえます。日本から派遣される教師と現地採用の教師の調和も必要です。また,親ごさんがお子さんから学校生活の話をいつも聞くようにし,お子さんの話から親が教師についてよく知ようにし,教師とともにお子さんを温かく育てるようにすることが大切です。教師からお子さんの成長についての適切な助言を得られるような関係を作るようにしましょう。

    最後に,私が補習授業校の教師であったとき心していたことをお伝えしたいと思います。

    • 児童生徒には日本の学校で勉強するための基本的学習姿勢が身につくような指導をする。
    • 授業がクラスみんなの積極的な参加によって成立するように指導する。
    • 学習目標は家庭学習と教室学習との両立によって,それぞれの子どもに応じて達成できるよう指導する。
    • 家庭との連携を図り,家庭は第二の教室と考え,保護者との信頼を第一とする。
    • 児童生徒の学習の発展は,ひとりひとりの個性を見極めてこそ成り立つと心しておく。

    次回は日本語学校についてお話します。

     

    著者経歴:東京学芸大学教育学部数学科卒。日本女子大学附属豊明小学校教諭,バンクーバー補習授業校教頭を経てバンクーバー日本語学校主任教諭。

    本稿はJaponism Victoria, vol.3, no.2, 2009掲載の同名記事に加筆修正をしたものです。著者経歴は執筆時のものです。

     

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  • 日本語で学ぶ Learning in Japanese[3]

    日本語で学ぶ[3]

    内藤 邦彦 @バンクーバー日本語学校

     

     

    日本語学校

    日本人学校と補習授業校に続いて日本語学校についてお話しします。日本語学校とは,ひとくちでいえば日本語を学ぶための学校です。すべての日本語学校で日本語を教えています。ただし,日本語を教える方法にはそれぞれの学校の独自性が表れているため,日本語学校での教育内容や教育方法をひとまとめにお話しすることができません。なぜ独自性が強いかといいますと,この日本語学校というのは日本の文部科学省が管轄する学校ではなく,また現地の公立校でもない,私学や私塾であるからです。

    従って,日本語学校の授業内容は「日本文化を多く取り入れて日本語の授業をする」「日本の国語の教科書を使い日本語の授業する」「日本語の読み書きを中心に授業をする」「国語の教科書や漢字プリントを使い検定を目的にした授業をする」等々,様々です。多くの日本語学校ではこのような日本文化を意識した授業をしているはずですが,重点の置き方が学校ごとに異なります。それぞれの日本語学校は独自の理念と教育目標をかかげ,地域の特性や期待感に基づいて教育を推進していますので,生徒,教師,保護者の姿も学校ごとに様々といえるでしょう。

    私が勤めているバンクーバー日本語学校では,百年の歴史をふまえながら幼児からおとなまで日本語学習を進めるとともに,日本文化を伝承することを理念とし,バンクーバー社会との交流を深めながら日本語教育に邁進(まいしん)しています。学校行事にも日本の伝統文化を多く取り上げ,入学式,卒業式,運動会,学芸会,秋祭り,もちつき,節分,ひなまつり,こどもの日,七夕などを教育活動の大切な柱として,楽しい学校生活を作っています。また,バンクーバー地域の他学校の生徒に日本文化を紹介するため,書道,茶道,歌,着物,折り紙,武道などの教室を開いています。

     

     

    日本語学校は義務教育ではありませんので,入学するか否かという「入学の選択」が生じます。もちろん,これまでにお話しした日本人学校にも補習授業校にも「入学の選択」はありますが,日本人学校は日本の学習指導要領に沿った授業を行う日本の義務教育としての学校,また補習授業校は基本的に,現地の学校に通学していることを前提として日本へ帰国する準備のための学校です。したがって,これらの学校で学ぶ場合には保護者・生徒に「日本への回帰」が強く意識されています。

    これに対して日本語学校の場合は,そのような回帰意識は必ずしも強くありません。日本語学校は日本人の義務教育機関でも,日本人だけが通学する学校でもありません。日本語学校への入学は,あくまで日本語の維持や習得を目的とした選択となります。その点が日本人学校や補習授業校と大きな違いです。

    したがって,日本語学校への入学は日本語を学びたい(学ばせたい)というお気持ちが基盤となりますので,お子さまを日本語学校へ通わせる場合は,保護者の方がこのようなお気持ちをしっかりお持ちかどうかがお子さまの学習成果にも影響します。それは,学習を続けていくと誰にでもそれを妨げるような問題が生じるのですが,そのときに,保護者の方からの暖かな励ましと手助けが,お子さんの日本語学習が成功するかどうかの分岐点になるからです。

    • あきらめてやめたら,きっと後悔しますよ!
    • がんばってつづけたら,きっと感謝しますよ!

     

    著者経歴:東京学芸大学教育学部数学科卒。日本女子大学附属豊明小学校教諭,バンクーバー補習授業校教頭を経てバンクーバー日本語学校主任教諭。

     

    本稿はJaponism Victoria, vol.3, no.4, 2009掲載の同名記事に加筆修正をしたものです。著者経歴は執筆時のものです。

     

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  • 日本語で学ぶLearning in Japanese[4]

    日本語で学ぶ[4]

    内藤 邦彦 @バンクーバー日本語学校

     

     

    日本語で学ぶ意味

    日本人学校,補習授業校,日本語学校と3回にわたってお話しした『日本語で学ぶ』シリーズも今回で最後です。そこで,これまでのまとめとして,大切にしたい点を3つ挙げたいと思います。

    まず『保護者のお気持ち』についてです。日本を離れ海外でお子さまが日本語の学習を進めるとき,多くのご家庭で日本語学習の継続が難しくなる状況が起きます。前回も述べましたように,そのような場合,子どもに日本語を学ばせたいというお気持ちを保護者の方がしっかり持っていらっしゃるかどうか,またそのお気持ちからお子さまに暖かな励ましと手助けをなさるかどうかが,お子さまの日本語学習継続の分岐点となります。

    ここで考えておきたいのは,そのような保護者のお気持ちの本質なのです。子どもに日本語を学ばせたいというお気持ちを保護者の方がしっかりお持ちになるためには,日本語を学ぶ意味を保護者がよく理解されることが大切なのです。

    • いつか日本に帰国した時に,きっと勉強している日本語が役に立ちますよ。
    • 今やめてしまったら,後から日本語を勉強するのはとてもたいへんですよ。
    • 大きくなったら必ずよかったと思うから,がんばって日本語の勉強をつづけなさい。

    などというのは子どもに対する激励であるとしても,日本語を学ぶことの本質ではないのです。日本語を学習するということは日本という国を知ることなのです。それぞれの言語はそれぞれの文化を伝承し,発展させるものです。「子どもに日本語を学んで欲しい」という保護者のお気持ちは,「子どもに日本という国を知ってもらいたい」という願いが基盤になっていて欲しいのです。

    あなたはカナダという海外の地にいて,子どもに日本という国をどのくらい知って欲しいのでしょう。あなたは,日本語で学ばせることによって,子どもに日本という国をどのように知って欲しいのでしょう。このようなご自身のお気持ちをよく確認なさることが大切でしょう。

    第2に『日本文化を学ぶ』という点です。日本人学校と異なり,日本政府からの経済援助を受けていない日本語学校でも,独自の教育理念を掲げて情熱を持って学校経営に努力しています。多くの日本語学校では,学校行事に日本文化をとり入れた学習活動を大切にしていますし,教師たちも教材・教具にもできるだけ日本のものを活用しようと工夫しています。これは,ほとんどの日本語学校が単に日本語の言語能力を獲得することだけを目的とした語学学校ではないからです。日本語が話せるようになるというのは学習過程の目標であっても,ゴールではないのです。漢字が書けるようになるというのは学習成果の嬉しい表れであっても,ゴールではないのです。

    また,日本文化を学ぶということは,単に日本の習俗・習慣,歴史を学ぶことではないはずです。私は,子どもたちには,今の日本を知らせることを中心にして日本文化を考えてもらいたいと思います。教室では,今の日本について授業ができるように,教師はいつもしっかりと日本を注視して欲しいと思います。家庭では,今の日本が話題にのぼるように誰かがいつも日本のことに関心を持っていてくれるといいでしょう。子どもたちには,過去と現在を知って夢のある未来のゴールをめざして欲しいと願うからです。

     

     

    最後に『子どもと先生』についてです。連載も最後になりましたので,子どもと先生について私の基本的スタンスを述べておきたいと思います。

    Q:どんな子どもが良い子で,どんな子どもが悪い子ですか?

    A:子どもは,どの子もみんないい子です。

    Q:どんな先生が良い先生で,どんな先生が悪い先生ですか?

    A:子どもをよく見ている先生が良い先生です。子どもをよく見ていない先生が悪い先生です。

    教師の評価は授業の巧拙だけで決まるものではありません。特に初等教育・中等教育では,児童生徒をどれだけ知っているかが決定的に大切です。教師の評価をしたいときは,直接会って子どものことを尋ねてみればすぐ分かります。とりわけ,「うちの子のよいところは,どんなところですか?」と,聞いてみてください。良い教師は即座に,10や20いいえ100までも聞かせてくれることでしょう。ちなみに,悪いところを聞いてもその判断はくだせません。

    また,親しくなりすぎる教師も考えものです。教師との信頼は大切ですが,仲良しとはちょっとちがいます。

    そして,日本語学校の『子どもと先生』は,日本語の持つ美しさで結びついていたいと思います。子どもが頑張って勉強した日本語で表現してくれた時,教師はどんなに嬉しいことでしょう。先生が,その子にぴったりと合った日本語で話しかけてくれた時,子どもはどんなに嬉しいことでしょう。こんな時,私たちは日本語の持つ素晴らしさと日本語を学んだ嬉しさが実感できるのです。

     

    著者経歴:東京学芸大学教育学部数学科卒。日本女子大学附属豊明小学校教諭,バンクーバー補習授業校教頭を経てバンクーバー日本語学校主任教諭。

     

    本稿はJaponism Victoria, vol.3, no.5, 2009掲載の同名記事に加筆修正をしたものです。著者経歴は執筆時のものです。

     

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